治療と就労の両立をさせるために必要な職場環境整備と外部資源の活用法 | さんぽJOB

治療と就労の両立をさせるために必要な職場環境整備と
外部資源の活用法

疾病を抱える労働者の中には、働く意欲や能力があるにもかかわらず、職場内において、入院・通院をはじめとする治療と仕事の両立を可能にする環境が整っていないために、治療を中断してしまうケース、仕事を継続することが困難となり離職を余儀なくされるケースも少なくありません。疾病を抱える労働者の健康や安全に配慮した職業生活を支援するのみならず、事業場の健康経営の実現のためにも、治療と仕事の両立に向けた職場環境の整備が重要です。
今回、両立支援で必要な職場環境整備と外部資源の活用法についてご紹介させていただきます。

1.両立支援のよくある課題

治療を続けながら働く社員は、通院や体調不良など日々の変化に対応しながら業務をこなす必要があり、多くの負担を抱えています。それでも、職場の勤務制度が柔軟でない場合、通院のための休暇取得や勤務時間の調整が難しく、治療と仕事の両立が困難になるケースが多く見られます。また、管理職や同僚の理解不足から、治療中の社員が職場で孤立感や精神的ストレスを感じることも少なくありません。さらに、治療に伴う体調の変動により業務の負担が偏りやすく、チーム内での調整も課題となっています。
こうした状況を改善するには、人事部門による柔軟な勤務制度の整備だけでなく、社員本人の状況に応じたきめ細かいサポートが不可欠です。しかし、人事労務担当者だけで対応するには限界があるため、医療機関や専門の支援団体、相談窓口などの外部資源を活用し、社員の治療と仕事を支える体制を築くことが重要です。


2.社員が安心して治療を続けられる職場づくりのポイント

病気を抱えながら働く社員が安心して治療と仕事を両立できる環境を整えることがまず求められます。病気を理由に退職することは、社員本人にとって再就職のハードルが高くなるだけでなく、企業にとっても貴重な人材を失う痛手となります。そこで、治療を続けながら働けるよう、柔軟な勤務時間や業務内容の調整ができる職場環境を整備することが重要です。産業医が配置されていない中小企業においても、事業主や人事労務担当者が中心となって、就業規則の見直しや労働条件の改定を進めることで、治療と仕事の両立支援は十分に可能です。


こうした職場環境の整備や支援の必要性が高まる中で、企業が疾病を抱える労働者に対して、より具体的かつ実践的な対応を行うための指針が求められていました。そこで、平成28年に厚生労働省は、治療と仕事の両立を支援するために企業が取り組むべき具体的な方法や手順をまとめた「治療と仕事の両立支援に関するガイドライン」を作成、さらに平成30年には 「企業・医療機関連携マニュアル」が公表されました。これらのガイドラインやマニュアルに基づき、企業が実際にどのように支援を進めていけばよいのか、具体的なステップが整理されています。 ガイドラインを基に、治療と仕事の両立を支えるための基本的な流れを簡単に確認しておきましょう。


3.両立支援の基本的な流れ

このガイドラインでは、企業が治療と仕事の両立支援に取り組む際の基本的な考え方や具体的な進め方が示されています。まずは、事業者による基本方針等の表明と労働者への周知が必要です。研修等による両立支援に関する意識啓発、相談窓口の明確化、休暇・勤務制度の整備が求められます。事業所全体で、治療と仕事の両立支援を取り組みましょう。両立支援を行う土壌が整えば、労働者からの申し出にいつでも対応できます。主な流れは①~③の通りです。

①労働者から、主治医に対して、業務内容等を記載した書面を提供
②主治医から、就業継続の可否や就業上の措置、治療への配慮等について意見書を作成
③職場における両立支援の検討と実施


事業者は、主治医、産業医等の意見を勘案し、労働者本人と十分に話し合った上で、就業継続の可否、具体的な措置(作業転換等)や配慮(通院時間の確保等)の内容を決定し、実施します。とはいえ、こうした対応をすべて人事労務担当者だけで担うのは簡単ではありません。 そこで活用したいのが「両立支援コーディネーター」です。両立支援プランや職場復帰支援プランの作成をサポートし、医療と職場の橋渡し役として重要な役割を担います(図1参照)。 次の項目では、この両立支援コーディネーターについて詳しくご紹介します。

両立支援を円滑にすすめるための外部資源の活用

4.両立支援コーディネーターとは?役割と必要なスキルを解説

独立行政法人労働者健康安全機構が「治療就労両立支援事業」の一環として、両立支援コーディネーターの養成を図っています。両立支援コーディネーターとは、主治医と会社の連携の中核となり、労働者(患者)に寄り添いながら継続的に相談支援を行いつつ、個々の労働者(患者)ごとの治療・仕事の両立に向けたプランの作成支援などを担う方のことを言います。
医療職と事業所側との連携が不可欠ですが、病気にかかった労働者(患者)がこうした書面を自らすぐに書き、医療機関や職場の間でやり取りをするのはなかなか困難です。両立支援コーディネーターが間に入って話を聞き、こうした書面作成を手助けしつつ、やりとりを手伝うと職業情報の漏れがなくなります。
自社で産業保健スタッフがいる場合は、産業保健業務を行いながら両立支援コーディネーターの役割を行っていますが、そうでない事業所の場合は人事労務担当者がその役割を担っていることが多いです。両立支援コーディネーターには、医療に関する基本的知識や労務管理に関する基本的知識などが求められます。場合によっては、社会資源に関する知識など、幅広い知識を求められます。何よりも労働者の話を聴くというコミュニケーションスキルも必要です。
誰しも医師から大きな病気を告げられたら戸惑います。かつては、医療機関は病名を告知しないのが常識でしたが、現在は患者さんの人権を尊重するために、告知はもはや一般的になってきました。疾病や治療に伴う心理的ストレスへ理解を示すことができる人が両立支援コーディネーターに求められます。


トライアングル型サポート体制

平成29年(2017年)に「働き方改革実現会議」で決定された「働き方改革実行計画」において、主治医、会社・産業医及び両立支援コーディネーターによる、患者への「トライアングル型サポート体制」を構築するよう定められています。図にも示している通り、それぞれで抱えている不安や疑問を少しでも軽減できるような対応が両立支援コーディネーターに求められます。(図2参照)。


参考: 治療と仕事の両立支援コーディネーターマニュアル | 独立行政法人労働者健康安全機構


両立支援には、こうした専門職や外部の支援機関を上手に活用することも、治療と仕事の両立を円滑に進めるためには有効です。中でも、産業保健に関する幅広いサポートを無料で提供している「産業保健総合支援センター(通称:さんぽセンター)」は、特に中小企業にとって心強い存在です。ここからは、さんぽセンターの活用についてご紹介します。

5.外部支援の活用 ― さんぽセンター(産業保健総合支援センター)とは?

みなさんは独立行政法人労働者健康安全機構が運営している産業保健総合支援センター(さんぽセンター)という公的機関をご存じでしょうか。労働者が心身ともに健康に働ける環境整備のサポートを行っています。利用対象者は、事業主や衛生管理者、産業医など、産業保健活動に携わるすべての人たちです。産業保健に関する研修や相談対応、情報提供などを無料で行っており、全国47の都道府県に設置しています。主な活動内容は以下のとおりです。産業保健総合支援センターの相談窓口を活用しながら、従業員の両立支援のサポートを行うのが良いでしょう。


① 窓口相談・実施相談
産業保健に関する様々な問題について、専門スタッフが実地又は、センターの窓口(予約)、電話、電子メール等で相談に応じ、解決方法を助言しています。

研修
産業保健関係者を対象として、産業保健に関する専門的かつ実践的な研修を実施しています。また、他の団体が実施する研修について、講師の紹介等の支援を行っています。

情報の提供
メールマガジン、ホームページ等による情報提供を行っています。また、産業保健に関する図書・教材の閲覧等を行っています。

広報・啓発
事業主、労務管理担当者等を対象として、職場の健康問題に関するセミナーを実施しています。

その他、地域の産業保健活動に役立つ調査研究を実施したり、地域窓口(地域産業保健センター)の運営を行ったりしています。


6.まとめ

自社で産業保健スタッフを雇用していない場合は、人事労務担当者が両立支援コーディネーターの役割を担っていることが多いでしょう。上手に事業所外の資源を活用し、人事労務担当者が連携の窓口に努めましょう。労働者(患者)に過度に寄り添ってしまい感情移入してしまったがために、人事労務担当者が不調になってしまっては元も子もありません。できることとできないことを上手に切り分けて、コーディネーターの役割を担っていきましょう。

<執筆>
阿部 春香(保健師、産業カウンセラー、第一種衛生管理者)

日本産業衛生学会、日本産業保健師会に所属する。2024年に日本産業衛生学会の産業保健看護専門家制度登録者として登録する。
広島大学大学院(博士課程前期)を修了後、健診施設に勤務する。現在、中小企業の保健師として勤務し、健康経営の推進を行っている。
働く全ての人に産業保健を届けたいという思いから、産業保健職として産業保健の社会的認知を広げるための活動も行っている。