休職・復職支援における保健師の活用方法と導入事例(がんの場合) | さんぽJOB

休職・復職支援における保健師の活用方法と導入事例
(がんの場合)

現在、日本人の2人に1人は一生のうちに何らかのがんになるといわれています。それだけがんという病気は、すべての人にとって身近なものです。
しかし、ひと口にがんといっても、その病状や経過は、がんの種類やがんが見つかったときの状態などによって異なり、人によってさまざまです。依然として日本人の死因のトップではあるものの、医療技術の進歩によりがんと共に生きるという考え方も生まれてきています。特に女性においては、男性よりもがんの好発年齢が低く、子宮がんや乳がんは働き盛りの世代に発症するため、正しい知識が必要です。
今回はがんを中心に、保健師の活用方法と導入事例についてご紹介させていただきます。

参考: がん情報サービス|国立研究開発法人国立がん研究センター

1.がんに対する正しい知識について

まず保健師に求められることとしては、従業員に対して、がんに対する正しい知識を普及させ、がんの早期発見に努めることです。国のがん対策として行われるがん検診について、職域の分野でも推奨されています。適切な年齢、および適切な受診間隔で受けて、がんを早期に発見し、適切な治療を受けることが重要になります(表1参照)。


表1 国が推奨するがん検診の一覧
種類 検査項目 対象年齢 受診間隔
胃がん 胃部X線検査・胃内視鏡検査 50歳以上 2年に1回
子宮頸がん 問診、視診、子宮頸部の細胞診・内診 20歳以上 2年に1回
肺がん 問診、胸部X線検査、喀痰細胞診 40歳以上 1年に1回
乳がん 問診、乳房X線検査 40歳以上 2年に1回
大腸がん 問診、便潜血検査 40歳以上 1年に1回

がん検診とは、がん死亡を減らす効果が確実で、かつ、利益が不利益を上回るものが定められています。表1にある対象年齢より若い年代ではがんにかかる方が少なく、がん検診の有効性も確認されていないため、対象年齢に達してからがん検診を受診することを推奨します。いずれのがんも自覚症状が出る前に早期発見することが十分可能で、それにより死亡率を低下させることができます。そのためにも適切な間隔で受診し、がんの早期発見に努めましょう。


ただし、がん検診でがんが100%見つかるものではありません。偽陰性といって、実際は陽性であるにも関わらず陰性と診断してしまうこともあります。今後さらに医療技術が進歩したとしても、100%発見できることはありません。逆に早期に発見できるがゆえに、微小で進行の遅いがんを見つけてしまうこともあり、心理面や経済面での負担を生じさせてしまうこともあります。その他にも胃部X線検査においてはバリウムを服用することによる誤飲や腸閉塞のリスクを生じさせたり、子宮頸がん検診では子宮頸部からの出血のリスクを生じさせたり、身体への偶発症も少なからず発生します。がん検診による利益だけではなく、不利益も生じさせることも認識しておかなければなりません。
そして、最も重要なことは、精密検査と判定された場合、医療機関で精密検査を受けることです。がん検診はあくまでもスクリーニングが目的で、精密検査と判定されたからといって実際にがんと診断されるのはごくわずかです。怖がらずに、精密検査を受けましょう。


参考: がん検診|厚生労働省

2.治療と仕事の両立を支える現場のリアル

前項で述べたように、検診で発見されるがんは早期のものが多く、入院期間も短期間ですみます。何かしらの自覚症状があって病院を受診し、がんと診断されたものについては、進行がんで見つかることが多いです。入院期間も長期に渡り、退院後も抗がん剤治療による通院を行わなければならず、かなりの負担がかかります。今回、私が経験した43歳と50歳の女性の乳がん治療についてご紹介させていただきます。


A氏、50歳女性

健康意識が高く、毎年、がん検診を欠かさず受けていました。
8月頃に受けた乳がん検診で精密検査を受けたところ、早期乳がんと診断されました。医師からは温存手術を勧められましたが、本人の強い希望もあり全摘手術を行いました。入院期間は1週間、退院後はホルモン剤治療と定期検査を行っています。
術後2年が経過しましたが、今のところ再発はしていません。退院後の定期受診についても会社の休業日や有給休暇で受診することができました。ホルモン剤治療による吐き気などの副作用を訴えるときもありましたが、就業上の配慮を求めるほどではなかったです。ご本人も上司や同僚に乳がんであることは公表していました。定期受診後に受診結果についての報告を聞く程度のもので、保健師として何か大きく関わったことも特になかったです。




B氏、43歳女性

自身の乳房を触っていたところ、ピンポン玉大のしこりがあることに気がつきました。すぐさま乳腺科を受診し、精密検査を受けたところ、進行乳がんと診断されました。
遠隔転移はなかったものの、腋下へのリンパ節転移も認められました。乳房から腋下にかけ広範囲での切除術が必要となりました。入院期間は10日間、退院後も抗がん剤治療を受けることになりました。かなり広範囲での切除を行ったため、かつてのように大きく腕を動かすことができなくなり、しびれや痛みを訴えることもあり、自家用車の運転も困難になりました。抗がん剤治療による、頭髪の脱毛もありました。ご主人から「腰まで髪があったのにな…」と嘆いていた姿が今でも忘れられません。
抗がん剤治療については、3週間を1クールとしたものを6サイクル行うこととなりました。副作用による吐き気、食欲不振、倦怠感、口内炎により食事が十分にとることができなくなりました。特に点滴加療中は精神的な不安にも苛まれていました。「療養期間中、いつでも話を聴きますよ」とお伝えしていたので、何度か電話で話を聴いていました。
通院による抗がん剤治療を選択していましたが、ほぼ1年はまともに就業することができなかったです。「このまま仕事を続けてもいいのかな…」という不安を訴えることもありましたが、ご家族や職場の上司・同僚から「絶対に戻ってきなさい」言われていた言葉が励みになり、退職という選択は選ばなかったです。

抗がん剤治療がひと段落した後、作業できる範囲を確認するため、主治医宛てに勤務情報提供書を作成しました。
業務可能範囲について主治医の見解を得て、産業医の了承を得た後に職場復帰をしました。長期間の抗がん剤治療により、体重が激減し体力も著しく低下していたため、まずは身体を慣らす必要があったため、半日勤務でのスタートでした。
業務内容については腕の可動範囲が狭まったこともあり、主治医から変更するようにと示されていました。定期的に保健師と面談を行い、ご本人の体調を確認しながら、徐々に勤務時間を延ばしていきました。術後2年かけて、なんとか日常生活に戻ることができました。今でも再発や転移という不安を抱えながら、定期検査による通院は続いています。


3.保健師による役割

同じ乳がんという診断名でありながらも、早期がんで見つかったものと進行がんで見つかったものとで、ここまで大きく異なるのかと学ぶことができました。保健師の役割として、両立支援の専門家として従業員を支援することも重要ですが、予防の大切さを伝えることも重要です。 がんに限らず、全ての病気に共通して言えることとしては、①必要な情報を共有し連携すること②医療機関(主治医など)と連携して、労働者と会社(事業者、人事労務担当者など)の間の調整支援をすること③就業継続の可否や必要な就業上の措置、治療に対する配慮について、医師の意見を求めることが求められます。病気を抱えながら働くことが当たり前であるこのご時世だからこそ、従業員に寄り添い、就業継続できるようなサポート体制を保健師と共に構築していきましょう。

そして、何よりも大切なのは風通しの良い職場風土を保つことです。 病気を発症したことを相談しやすく、それに伴う配慮を求めやすいこと、こういった職場風土は一朝一夕で築くことはなかなか困難です。そういう職場風土を築いている事業所において、保健師の本来の力を発揮できるのではないでしょうか。
就業継続の意思があるにも関わらず、病気による退職を選択してしまうことは、労働者(患者)、事業所にとっても悔やまれることです。労働者が安心して安全に就業を継続できるようにサポートするのが保健師の役割です。


<執筆>
阿部 春香(保健師、産業カウンセラー、第一種衛生管理者)

日本産業衛生学会、日本産業保健師会に所属する。2024年に日本産業衛生学会の産業保健看護専門家制度登録者として登録する。
広島大学大学院(博士課程前期)を修了後、健診施設に勤務する。現在、中小企業の保健師として勤務し、健康経営の推進を行っている。
働く全ての人に産業保健を届けたいという思いから、産業保健職として産業保健の社会的認知を広げるための活動も行っている。