従業員の健康意識を高める教育と予防活動 | さんぽJOB

従業員の健康意識を高める教育と予防活動

1.メンタルヘルス対策の体系

職場におけるメンタルヘルス対策は、3本の柱から成り立っています。(一次予防)メンタルヘルス不調の未然防止、(二次予防)メンタルヘルス不調の早期発見と適切な対応、(三次予防)職場復帰支援の3つが主要な柱です(下図参照)。

どの予防段階においても、産業保健師は重要な役割を果たします。特に、保健師は傾聴スキルを養っており、従業員や管理職の話を聴き、情報整理を行うことができます。また、看護師免許も取得しているため、医療情報の整理、産業医や主治医との連携は得意です。二次予防、三次予防の段階については、従業員やまわりの人たちが対応に困っているケースが多く、保健師のニーズが高まりやすく、比較的スムーズに進めることができます。ところが病気の未然予防の段階、つまり一次予防では、具体的に何かに困っているわけではないので、なかなか活動しにくいのが現状です。

一次予防~三次予防

参考: 職場におけるメンタルヘルス対策の現状等|厚生労働省

2.第14次労働災害防止計画について

令和5年3月に作成された第14次労働災害防止計画によれば、①メンタルヘルス対策に取り組む事業場の割合を2027 年までに 80%以上とする、②使用する労働者数 50 人未満の小規模事業場におけるストレスチェック実施の割合を2027 年までに 50%以上とする、③各事業場において必要な産業保健サービスを提供している事業場の割合を 2027年までに80%以上とする、といった目標がたてられています。また、労働者の健康確保対策の推進として、自分の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み又はストレスがあるとする労働者の割合を2027 年までに 50%未満とする、という目標もたてられています。

先述した3本柱のうち、ストレスチェックで未然防止を強化し、今後は一次予防をより重点的に取り組んでいくこと計画しています。
現行では努力義務としている50人未満の事業場におけるストレスチェックについて、義務化の対象とするよう提言されており、産業保健スタッフのニーズは益々求められるでしょう。とはいえ、50人未満の事業場の中には、単独で運営している事業場も数多くあるため、ストレスチェックを取り組むことが困難だったり、そもそも認識できていなかったり、政府が掲げている目標値まで到達できるのだろうかという疑問も残ります。日本を支える企業の大半は中小企業で、その中でもメンタルヘルス対策に取り組める企業は限られており、健康格差は益々広がってしまうような懸念もあります。

参考: 職場におけるメンタルヘルス対策の現状等|厚生労働省

3.一次予防を取り組むためには

政府としてはできるだけコストを抑えたいため、三次予防よりも二次予防、二次予防よりも一次予防に注力していきたいと考えています。
もちろん、事業所においても三次予防に至ってしまうと、生産性の低下や人材の流出に直結し、莫大なコストが発生してしまうので、できるだけ回避したいところです。病気になって十分に働くことができなくなってしまった従業員を切り捨てるのか、一次予防に注力していくかは、事業所の考え方や経営層の方針によって大きく変わります。
かつての日本は潤沢に人材が揃っており、従業員が退職してもまた新たに採用したら良いと考えていた事業所も多かったことでしょう。
しかし、少子高齢が加速している現在ではそんなに悠長な態度では居続けられません。求人をかけてすぐに人が集まるのか、能力の高い人を採用することができるのか、長く勤務してくれるのか、未知数なことばかりです。

言うまでもなく、産業保健師に課せられた課題は、企業の生産性を低下させないこと、一次予防の重要性について説いていくことです。忘れてはならないのは、産業保健の主役は経営層と管理職、従業員です。特にキーとなるのは管理職で、産業保健師は管理職にアプローチをし、行動を支援していく必要があります。そのため、従業員の中でも特に管理職との信頼関係を築くことが求められます。信頼関係を築きながら、事業所全体で一次予防に取り組んでいきましょう

参考: 職場におけるメンタルヘルス対策の現状等|厚生労働省

4.メンタルヘルスケアの具体的な進め方

実施主体による分類としては、下記の通りです。メンタルヘルス対策を効果的に進めるためには、各事業場の実態に応じて4つのケアが継続的かつ計画的に行われるようにすることが重要です。それぞれの立場に応じてケアの内容が変わってくるので、対象に応じて、メンタルヘルス研修を行うのが望ましいです。

4つのケア

参考: メンタルヘルス対策のポイント|厚生労働省

5.セルフケアについて

メンタルヘルス対策の中で、最も基本となるものがセルフケアです。ストレスと聞くと悪いものだと認識されがちですが、多少のストレスがないと人は成長しません。しかし過度なストレスがかかると、それらが原因で心の健康を害する可能性があります。ストレスの程度や状況は人によって異なりますが、労働者自身がストレスに気づき、これに対処するための知識、方法を身につけ、それを実施することが心の健康づくりを推進するためには重要です。ストレスに気づくためには、労働者がストレス要因に対するストレス反応や心の健康について理解するとともに、自らのストレスや心の健康状態について正しく認識できるようにする必要があります。

このため、事業者は、労働者に対して、セルフケアに関する教育研修、情報提供を行い、心の健康に関する理解の普及を図らなければなりません。また、相談体制の整備を図り、労働者自身が管理監督者や事業場内産業保健スタッフ等に自発的に相談しやすい環境を整える必要もあります。
ストレスへの気付きを促すためには、ストレスチェック制度によるストレスチェックの実施が重要です。特別の理由がない限り、すべての労働者がストレスチェックを受けることが望ましいです。さらに、ストレスへの気付きのためには、ストレスチェックとは別に、随時、セルフチェックを行う機会を提供することも効果的です。
セルフケアについては、管理監督者にとっても重要であり、セルフケアの対象者として管理監督者も含めます。もちろん全てのケアが重要になってきますが、従業員全体の健康意識を高めるためには、まずはセルフケアへの介入を行いましょう。会社全体で取り組んでいる姿勢を従業員に見せることで、必ず良い会社風土が生まれます。

参考: 職場における心の健康づくり|厚生労働省

参考: こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト|厚生労働省

<執筆>
阿部 春香(保健師、産業カウンセラー、第一種衛生管理者)

日本産業衛生学会、日本産業保健師会に所属する。2024年に日本産業衛生学会の産業保健看護専門家制度登録者として登録する。
広島大学大学院(博士課程前期)を修了後、健診施設に勤務する。現在、中小企業の保健師として勤務し、健康経営の推進を行っている。
働く全ての人に産業保健を届けたいという思いから、産業保健職として産業保健の社会的認知を広げるための活動も行っている。