健診結果や面談記録、「どこまで人事が扱っていいの?」と悩んでいませんか?
健康診断の結果やストレスチェック後の面談記録など、社員の健康に関する情報は、企業にとって重要な労務管理の一部です。一方で、これらは個人情報の中でも特に機微性が高い「要配慮個人情報」に該当するため、取り扱いには細心の注意が必要です。
特に、中堅企業では「制度はあるが運用が曖昧」というケースも少なくありません。
「健診結果を人事がどこまで見ていいのか分からない」「保健師や産業医と何を共有していいか迷う」「社員から同意を取るべきか、どこまで説明すべきか」など、現場では判断に悩む場面が多く見られます。
そこで本記事では、以下のような実務の疑問に対し、個人情報保護法の観点と、産業医・保健師との情報連携の実際を踏まえて解説します。
● 健診結果やメンタル不調に関する情報は、誰がどこまで管理すべきか
● 同意取得の正しい方法とは
● 保健師・産業医との役割分担と情報共有の工夫
● 情報管理ルールの整備や社内周知のポイント
「情報を守る」と「必要な連携をする」のバランスが求められる今、人事として押さえておきたいポイントを、わかりやすく整理してお伝えします。
産業保健領域で最も迷いやすいのが、「人事としてどこまで健康情報を把握してよいのか」という線引きです。ここでは、法的な整理をもとに、人事が扱うべき情報と、取り扱いに注意が必要な情報の違いを明確に解説します。
健康情報には、法令上「企業(人事)が把握・保管すべき」とされている法定情報と、そうではない法定外情報があります。
【法定情報】
● 健康診断の「受診有無」や「就業判定の結果」
● 産業医による面談勧奨や就業上の意見書
● 労基署提出のための定期報告書関連の情報
これらは、労働安全衛生法に基づき、人事が業務として扱う必要がある情報です。
【法定外情報】
● 健康診断の具体的な数値(血圧・BMI・肝機能値など)
● ストレスチェックの自由記述欄や、心理的傾向に関する詳細な結果
● 医療機関での治療内容や診断名(主治医が発行し本人が会社に提出した診断書以外)
こうした情報は、「業務遂行に必要な範囲」を超えて人事が把握することは原則としてNG。しかしながら、本人が就業の配慮を希望する場合(両立支援目的)には、人事は積極的に把握しなければなりません。個人情報保護の観点と適切な就業配慮を行うという観点から、適切なバランス感覚を持ちつつ、十分な配慮を持って取り扱うことが大切です。
人事担当者が共有・管理すべき情報のポイントは、「健康状態そのもの」ではなく、業務への影響があるかどうかという“就業可否や就業配慮の必要性の判断”に関わる部分に限られます。
たとえば、
● 「Aさんは○○の治療中」ではなく、
● 「Aさんは週3日勤務の配慮が必要」といった対応方針が共有対象です。
「何を扱ってよくて、何は扱ってはいけないか」— まずは人事内での基準の共有と、他部門(保健師・産業医)とのルールのすり合わせが重要です。
健康診断結果や産業医との面談記録など、健康情報を第三者と共有する際には「本人の同意」が原則です。ただし、その「同意」も取得の仕方を誤ると、逆にリスクになることがあります。
ここでは、「同意」にまつわるよくある誤解と、現場で実践しやすいポイントを整理します。
「本人から同意をもらっているから大丈夫」と考えるのは実務上の落とし穴です。
以下のような状況は、形式的な同意となり、法的にもリスクがあります。
● 上司から「とりあえずサインして」と言われて提出した
● 同意書の内容が抽象的で、誰にどんな情報が渡るか不明確
● 同意書に署名した記憶が本人にない
同意とは、「十分な説明を受けた上で、本人が納得し、自由意思で判断する」ことが前提です。
したがって、書面を取るだけでなく、内容や意図を本人に丁寧に説明するプロセスが重要です。
例えば、「この情報は、就業上の配慮が必要かを判断するために、産業医と人事で共有します」といった説明を面談時に添えることで、同意の質が格段に上がります。
実務でスムーズに運用するためには、「同意の範囲」「方法」「説明」の3点を明確にすることが大切です。
◆ 同意書テンプレートの例
● 「どのような情報(例:就業判定、診断書の内容)を」
● 「誰に(例:人事担当者、所属上司など)」
● 「何の目的で(例:配慮の必要性を判断するため)」
を明示したシンプルな様式にするのがベストです。
◆ 同意方法の工夫
● 面談時に紙で取得
● 健診結果報告と合わせて**電子同意(フォームや社内システム)**で取得
など、運用の手間を減らす工夫も重要です。
◆ 社内フローとの連携
人事・産業医・保健師の間で「どの場面で同意が必要か」「どこに保存するか」などをあらかじめルール化しておくと、トラブルを防げます。
同意取得は「トラブル回避」のためだけでなく、「本人の安心感」を高めるための信頼構築プロセスでもあります。
健康診断結果や面談内容などのセンシティブな情報を、産業保健職(産業医・保健師)と人事が共有する場面では、守るべきルールと理解しておくべき前提があります。
「よかれと思って情報を渡したら問題になった…」
そんなリスクを避けるために、以下の2つの視点が重要です。
まず押さえておきたいのは、産業医や保健師は「医療職」であり、職業倫理としての守秘義務を負っているということです。
● 健康上の情報を扱う際は、原則「必要最小限」かつ「本人の同意」を得た範囲内で共有を行います。
● 産業医・保健師は会社全体の利益を考えて行動しますが、「本人の利益をしっかりと考える」立場でもあります。そのため人事と同じ目的や視点で動くとは限らないのです。
これを知らずに、「人事として知っておきたいから教えてほしい」と依頼してしまうと、信頼関係を損ねる原因にもなります。
人事としては「情報を引き出す」よりも、「どう連携すれば適切な対応ができるか」を相談するスタンスが有効です。
こうした立場の違いを理解したうえで、人事と産業医の間に立って調整できるのが保健師の存在です。
保健師は、
● 本人への説明(何の目的で、どの情報が共有されるのか)
● 情報の整理と報告(産業医と連携し、必要な範囲で人事に伝える)
といった役割を担うことで、情報の適切な取り扱いと現場での実効性を両立することができます。
● メンタル不調者の対応:本人の同意を得た上で、保健師が就業配慮の必要性を産業医に共有。産業医が職場上司に説明し、就業上の配慮が行えたことで、休職に至らず、仕事と治療の両立が可能に。
● 復職支援:産業医が面談した内容を、保健師が咀嚼して人事と職場の上司に伝達。言葉のニュアンスや背景事情もフォローでき、職場での受け入れがスムーズに。
人事だけでは対応しきれない「情報の取り扱い」というグレーゾーンこそ、保健師という専門職の力を借りる価値がある分野です。
センシティブな健康情報を扱ううえで、人事として最も重要なのが「情報を守る仕組みを整えること」です。
健診結果や面談記録などを適切に取り扱う体制があるかどうかで、従業員の信頼や職場の安心感は大きく変わります。
健康情報を扱う際は、保管方法や閲覧権限に関するルールを明確にしておく必要があります。たとえば、以下のような視点で整理しましょう。
| 項目 | 内容の一例 |
|---|---|
| 保管年限 | 一般的には5年間。産業医の意見書なども同様。 保管年限を過ぎた書類を「誰が」「いつ」廃棄するか決めておくことも重要。(保健師対応がおすすめ) |
| アクセス制限 | 閲覧可能なのは「人事責任者+保健師・産業医など専門職」に限定。 必要に応じて、部門の上司にも一部共有。 |
| 電子データ管理 | パスワード付きフォルダ/アクセス履歴のログ管理を徹底。 |
また、ストレスチェックや面談記録などの法定外情報は、本人の同意がない限り原則非開示です。
「心配だから人事でも見ておきたい」という発想ではなく、「共有する必要があるか?」「共有して良い範囲は?」という視点での取り扱いが求められます。
適切な情報管理は、人事部門だけで完結するものではありません。
社内全体で「健康情報は大切に扱うもの」という意識を持つことが、従業員の安心感にもつながります。
たとえば、
● 衛生委員会で情報管理ルールの啓発や共有を行う
● イントラネットで「健康相談の情報は守られる」という発信を継続する
● 管理職向けの研修で、部下の健康情報に関する注意点を教育する
といった取り組みが、「安心して相談できる職場」づくりの土台になります。
特にメンタルヘルスや休職対応の場面では、「この情報を人事に伝えても大丈夫か?」と従業員が不安を抱えることも少なくありません。
適切なルール整備と、組織的な啓発によって“信頼される仕組み”を育てていくことが重要です。
健康情報の取り扱いにおいて、「なんとなく気をつけている」状態が最も危険です。
個人情報保護の観点からも、産業保健体制としての信頼性の観点からも、あいまいな判断や属人的な運用は大きなリスクにつながります。
組織としてリスクを避け、従業員の信頼を得るためには、以下の3つが鍵になります。

● 「どの情報を、誰が、どこまで扱うのか」のルールを明確にする
● 本人同意のプロセスを適切に設計する
● 保健師や産業医などの専門職と連携し、橋渡し役を担ってもらう
特に保健師が関与することで、
● 社員本人への説明や同意取得
● 健康相談やフォローの記録管理
● 人事や上司への報告範囲の整理
などが実務レベルでスムーズかつ安心して進められるようになります。
<監修>
大津 真弓 先生
2002年に産業医科大学卒業。
福岡徳洲会病院でスーパーローテート型の初期臨床研修を経て、総合内科のレジデントとして勤務後、 産業医実務研修センター(専門修練医)を経て、関西にある2カ所の工場(製造業)で専属産業を経験。自治医科大学病院での病院産業医任期中、双子の妊娠・出産を機に独立系産業医となる。
現在、埼玉県を中心に東京都、栃木県、茨城県の複数企業と契約し、産業保健サービスを展開中。
公衆衛生の専門医として2015年より埼玉県、2017年より東京都の公害審査会委員を務めた。
2017年には自治医科大学 大学院 医学研究科 博士課程を卒業。
・日本産業衛生学会 専門医・指導医
・社会医学系専門医協会 専門医・指導医
・本町在宅クリニック(埼玉県久喜市)院長
・一般社団法人 CSR(Cancer Survivors Recruiting)プロジェクト 理事
・アリスの会(産業医科大学医学部女性卒業生の会)会長
<参考>
● 法令・ガイドライン等|個人情報保護委員会
● 事業場における労働者の健康情報等の
取扱規程を策定するための手引き|厚生労働省
▼人事担当者向け 保健師FAQ
従業員の健康を支える仕組みを整えるうえで、保健師は欠かせない存在です。 こちらのガイドブックでは、保健師の役割や連携のポイントを、FAQ形式で分かりやすくまとめました。よくある疑問に対して、具体的な対応のヒントが得られますので、是非ご活用ください。